・・・ここであってるんだよな?仕分け作業のアルバイトって倉庫とか工場でやるもんだと思ったけど。」
街に佇んでいるごく普通のビルをポカンとした顔で地上から見上げ、山瀬拓巳は呟いた。
山瀬がここに来た理由は前の日に遡る。
―――――
山瀬は自分の住む1Kのアパートで悩んでいた。
この春から大学2年生になる山瀬は今まで親の仕送りのみで一人暮らしをここで続けている。
しかし、収入源が仕送りのみだと家賃、食費、光熱費等の生活費を賄うのでいっぱいいっぱいになり、自分の欲しい服や趣味に充てるお金までは十分には行き届かない。
かと言って、このままずっと欲しい物を我慢するのも辛い。
それにもしもの時の為に少しくらいはお金に余裕を持たせておきたい。
やはり快適な大学生活を少しでも送る為にはお金は必要。
山瀬は大学生活にも慣れてきた事だしバイトを始めようと決意した。
大学に向かう途中、いつも寄って行くコンビニに置いてあった求人情報誌を手に取り、講義の合間に目を通した。
何気なくページをめくっていると、飲食店の求人が目立つ。
その飲食店の求人の中でも、若いスタッフ達が肩を組んで写っている写真と『笑顔の溢れる楽しい職場で一緒に頑張りませんか?』というキャッチコピーを載せていた店舗の求人を見つけた時顔を歪ませた。
(こういう職場はちょっとな・・・)
山瀬は人見知りをする性格で、人の輪に入ってコミニケーションを取る事にあまり自信が無い為、こういった職場は溶け込めないのではないかと感じたのだ。
なるべく自分のペースで仕事が出来そうなバイトを探す事にした。
職場の雰囲気も出来れば賑やかじゃない方が良いかもしれない。と考えていると『急募!仕分け作業者募集!時給900円!未経験者でも出来る簡単なお仕事です。詳しい内容は面談にて』という求人が目に付いた。
(仕分け作業者か・・・何となくだけど必要以上の事は人と話さずに済みそうだし、他の仕事よりは俺に合っているような気がする。家に帰ったら電話で問い合わせてみよう。)
大学の講義が終わって帰宅すると早速バイト先に電話を掛け、電話担当に求人情報誌に掲載しているバイト先はまだ募集しているのか聞いてみる事にした。
すると、今すぐに来て欲しいくらい人手が足りないので、都合が合えば明日にでも面接に来て欲しい、詳細等は面接の際話すとの返事が返ってきた。
事がすんなり進んだのと仕事内容を教えられなかったのもあって少々怪しさを感じながらも、明日の講義は午前中に終わるので、ついでがてら昼から行ってみようと軽い気持ちで面接を受ける事にした。
(ちょっと不安だけどここまで来て引き返すのも何だし入るか)
山瀬は見上げていた目線を前に戻すとビルの中へ入って行った。
「すいません、求人情報誌に載っていた仕分けのバイトの面接に来たんですけど。」
中に入ると直ぐ様受付嬢に話しかけた。
「えっと・・・仕分けバイトの面接ですか?」
受付嬢もよく知らされていないのかキョトンとした顔で聞き返した。
「ええ、今日面接をするからここに来るよう言われたのですが。」
「あ、そうでしたかすいません!おそらくバイト募集の面接は4階の第3会議室に行けば担当の者がいると思うので、そちらにあるエレベーターを使って上がって行ってください。第3会議室はエレベーターを降りて突き当たりを右に進んで行くと辿り着きますので。」
「ありがとうございます。」
(やっぱり来なかった方が良かったんじゃないか?)
山瀬は受付嬢のいまいち歯切れの悪い応対ににますます嫌な予感がし、顔を引きつらせながらエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターに乗っている間も気分は戻らず、冴えない気分のままエレベータから見える外の景色を眺めていた。
街を歩いている人のほとんどがダウンジャケットやコートといった上着を着込んでいないのを見て季節の変わり目を感じさせる。
春という季節がより一層感じさせるのか、恋人達が肩を並べて幸せを共有し合っているかのように歩いている。
(ちくしょう・・・俺もいつかお金を溜めてオシャレに気を使ったりなんかして大学生のうちにはあんな風に女の子と・・・!)
冴えない気分から今度は憎悪に似た感情になり、歯をギシギシさせながらうらめしそうに街を眺めた。
山瀬は童貞である。
何にせよやる気が少し戻ってきた所でエレベーターが4階に到着し、言われた通り右に進んで行き第3会議室へ向かった。
程なくして第3会議室と書かれたプレートを目にし、山瀬はプレートが貼られている部屋に向かってノックをした。
コンコン!
「はーい。」
中から男の声が聞こえた。
「すいませーん、昨日電話で仕分けのバイトの面接を希望した山瀬という者ですけど。」
「ああ、君か。入って入って!」
「失礼します。」
ドアを開けると、スポーツ刈りでスーツ姿の見た目30代後半の男性が二つの段ボール箱の前で大量の紙を抱えて立っていた。
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