ここは山のてっぺんにある山の保育園。
山の動物達の子供達が通っています。
お日さまが昇る頃。
【キンコンカンコン】
とチャイムが鳴り、山の保育園の始まりです。
「おはようございます。」
と子供達の元気な挨拶。
「おはようございます。」
と山びこさんの元気な返事。
ママと手をつなぐみんなの元気な声が山に響き、山びこで返ってきます。
だから、みんな楽しくて。
「おはようございます。」
と子供達の元気な挨拶。
「おはようございます。」
と山びこさんの元気な返事。
なんて、また元気な声で挨拶します。
「はいはい、みなさん。おはようございます。」
カバの園長先生が大きなお口を開けて、やってきます。
「みんな、早く入らないと、お母さんがお仕事いけないわよ。」
そうです。
子供達を山の保育園に預けるのはみんなのお母さんにお仕事があるからです。
リスさんはドングリを拾いに。
ウサギさんは畑のニンジンが収穫しに。
ゾウさんはお鼻のホースで水汲みに。
クマさんはハチミツたっぷりの蜂の巣を探しに。
みんなお母さんにはお仕事があって、そのために高い保育料を払っているんですから。
カバの園長先生が言うと、お母さん達は一斉に手を離して、お仕事をするため、山へ下りていきました。
手を離された子供達はつまんなそうに保育園へと入っていきました。
カバの園長先生が門を閉めようとすると。
「おはようございます。」
と小さな声が聞こえます。
カバの園長先生の足元で、山の保育園で一番小さいコリスくんがピョンと跳ねて、挨拶をしています。
「あらあら、おはようございます。コリスくん。さあ、保育園に入るわよ。」
カバの園長先生がそう言われて、コリスくんはつまらなそうに走って、保育園に入っていきました。
なんで、つまらなそうかって?
それはコリスくんの小さな声では山びこさんが返事してくれないからです。
【みんなは大きな声が出て、山びこさんが返事をしてくれていいな。】
コリスくんは思います。
「どうしたのかしら?」
カバの園長先生はコリスくんの気持ちに気付かずに走って追い掛けます。
大きなカバの園長先生の走る振動でコリスくんはピョンと跳ねて、尻餅をついてしまいます。
部屋から見ていたお友達が笑います。
「ごめんね。コリスくん。カバの園長先生は重くて、コリスくんは小さいから。転ばしちゃって。」
カバの園長先生がそう言って、またお友達が笑い。
またコリスくんは自分の小ささに恥ずかしくなりました。
でも、我慢して、お尻の土を払い、下駄箱へと入っていきます。
まず難関1です。
鞄をフックに引っ掛けなくてはいけません。
フックはコリスくんには手が届くわけがない高さにあって、登ろうにも、ツルツルに磨いてあって、登れません。
コリスくんの難関1は鞄をどうやってフックに引っ掛けるかです。
「おい、コリス!」
フックの上にピョンと現われたのはコウサギくんです。
コウサギくんはコリスくんの3倍は大きいので、軽くジャンプして、フックの上に乗ることができます。
「さあ、シュートしろよ。」
コウサギくんが楽しそうに言うのだけれど、コリスくんはちっとも楽しくありません。
コリスくんは必死で鞄をフックに投げるけれど、なかなか鞄はフックに引っ掛かりません。
「コリス、がんばれ!もう少しだ。」
コウサギくんの応援が聞こえるけれど、やっぱしフックに鞄が届きません。
【ガツン】
鞄がフックに届かなかったけれど、カバの園長先生のげんこつはコリスくんとコウサギくんには届きました。
「鞄を大事にしなさい。」
今日、一回目のカバの園長先生のげんこつでした。
2人は頭をさすりながら、パンダ組の部屋に入ります。
鞄の次は帽子です。
それが難関2です。
部屋の真ん中に生えている樹齢10年のクワの木の枝が帽子掛けです。
なんてワイルドな山の保育園なんてゆうてる場合じゃありません。
樹齢10年のクワの木には貼り紙がしてあります。
【登るの禁止】
木登り得意のコリスくんですが、【登るの禁止】なのです。
鞄と違って、今度は投げません。
だって、木登り得意ですから。
難関2はばれないように登って、帽子を引っ掛けろです。
コウサギくんがカバの園長先生に話しかけて、気を引きます。
コリスくんはカバの園長先生が背中を向けた隙に走りだしました。
そして、樹齢10年のクワの木をかけのぼります。
すると、コリスくんより五倍大きいお友達のコゾウくんが応援するため、長い鼻を縮めて、鼻笛を吹きます。
【ピィー】
意外に甲高いコゾウくんの鼻笛。
【ガツン】
ふたたびカバの園長先生のげんこつが飛んできました。
コリスくんとコゾウくん、コウサギくんもついでに廊下に立たされてしまいます。
パンダ組の部屋からはカバの園長先生のオルガンとみんなの歌声が聞こえます。
「また怒られちゃった。」
コリスくんが言います。
「だって、コリスが鞄をうまく投げないから。」
コウサギくんが言います。
「だってコゾウくんが鼻笛を吹くから。」
コリスくんがコゾウくんに言うと、コリスくんの体が宙に舞いました。
コゾウくんの長い鼻がコリスくんをつかんで、高く上げます。
「こうすれば、帽子も鞄もコリスくんで引っ掛けれるよ。」
コゾウくんは言いました。
コウサギくんもよい考えだとうなずきます。
コリスくんはコゾウくんの鼻息がくすぐったくて、ケタケタ笑いが止まりません。
そして、窓ガラス越しにカバの園長先生と目が合います。
【ガツン】
みたび、カバの園長先生のげんこつが飛んできます。
懲りないコリスくんとコウサギくん、コゾウくんは罰として、廊下の雑巾掛けを10往復をカバの園長先生に言われます。
1往復するのに。
コゾウくんが10歩。
コウサギくんが20歩。
コリスくんが30歩かかります。
いつの間にか雑巾がけ競争が始まります。
コリスくんはコウサギくんに追い付くために。
コウサギくんはコゾウくんに追い付くために。
コゾウくんは追い付かれないにがんばります。
でも、結果は。
一等賞はコゾウくん。
二等賞はコウサギくん。
ドベはコリスくんです。
やっぱり大きい順に並びます。
「コリスは小さいからしょうがないよ。」
コウサギくんが言ってくれるけれど、小さい自分が悔しくて、コリスくんは下を向いてしまいます。
「コリスくんは小さいけれど、僕より木登り得意だし。」
コゾウくんが言います。
「そうだぜ。木登りだったら、俺だって勝てないぜ。」
コウサギくんも言ってくれました。
でも、いくら木登りが得意でも、コリスくんが小さいことには変わりません。
「おはようございます。」
とみんなが言えば、山びこが返事をしてくれます。
でも、コリスくんの声は体と同じで小さいから、みんなみたいに山びこさんが返事をしてくれません。
鞄をフックに引っ掛けたくても、コリスくんの小さな体では届きません。
帽子をクワの木に引っ掛けたくても、コリスくんの小さな体では届きません。
廊下の雑巾がけで一等賞になりたくても、コリスくんの小さな体ではいつもドベです。
そうコリスくんは山の保育園で一番小さいのです。
【なんでだろう?】
コリスくんはお母さんが作ってくれたドングリ弁当を食べながら考えます。
コウサギくんは真っ赤なニンジンのお弁当。
コゾウくんは大きな葉っぱのお弁当。
【ドングリばかり食べてるからかな?】
「ねえ、コウサギくん。コゾウくん。少しお弁当交換しようよ。」
真っ赤なニンジンをひとかけらもらって。
大きな葉っぱをひとちぎりもらって。
ドングリを一つずつあげました。
コリスくんはドングリひとつとひとかけらのニンジンとひとちぎりの葉っぱを包みます。
【カリカリ】
コリスくんは一緒にかじるとあんまりおいしくなかったけれど。
【大きくなるために】
我慢して、頑張って、食べました。
【コゾウくんぐらい大きくならなくても、コウサギくんぐらいには大きくなりたい。】
コリスくんは大きくなれることを夢見て。
【カリカリカリカリ】
全部食べて、おなかいっぱいになったけれど、やっぱり小さいままのコリスくんです。
お弁当の後は鉄棒の時間です。
難関3です。
コリスくんの苦手な鉄棒です。
だって、鉄棒に届かないんですから。
一番小さいコリスくんはやっぱし一番前に並びます。
コリスくん用の跳び箱も置かれました。
そのコリスくん用の跳び箱も悔しいんです。
でも、跳び箱に乗らないと、まったく鉄棒に届かないし、跳び箱に乗っても、まだ鉄棒には遠いんです。
隣の鉄棒ではコリスくんより二倍大きくて、五倍尻尾の長いコザルくんがすでに鉄棒にぶらさがってます。
しかも、尻尾で。
コリスくんはコザルくんの真似をして、尻尾を伸ばしてみます。
コリスくんの尻尾はクルリと巻いているので。
伸ばしても、クルリ。
伸ばしても、クルリ。
とすぐに戻ってしまい、ちっとも引っ掛かりません。
隣の鉄棒からコザルくんが器用にコリスくんの鉄棒までやってきます。
「コリスくん、こうやるんたよ。」
優しくコリスくんを鉄棒に引っ掛けてくれます。
コリスくんが前回りをしようとすると。
【ガツン】
またカバの園長先生がげんこつが飛んできます。
「いくら小さくても、自分でやらないと大きくなれないわよ。」
カバの園長先生は真剣に言いますが、何を言われても、コリスくんは小さいのです。
【もっと大きければ。】
コリスくんは悲しそうに跳び箱を飛び降りました。
カラスが鳴く頃。
みんなのお母さんが迎えにきます。
コザルくん。
コウサギくん。
コゾウくん。
コダヌキくん。
コギツネくん。
コグマくん。
みんな嬉しそうにお母さんと手をつないで、帰っていきます。
コリスくんはずっと考えていました。
【どうして僕はみんなより小さいんだろう。】
みんなは僕より大きくて。
うん?
うん。
コザルくんのザ。
コウサギくんのギ。
コゾウくんのゾ。
コダヌキくんのダ。
コギツネくんのギ。
コグマくんのグ。
そうか。
みんか名前に点々がある。
コリスくんは点々がない。
【だから、僕はみんなよりちいさいんだ。】
コリスくんは自分の小さいのは名前に点々がないことに決めました。
決してリスだからなんて理由は思いつかずに。
コリスくんはマジックで名札に点々を書きます。
【コリズ】
ちょっと最初は呼びづらいかもしれないけれど。
明日はコウサギくんとコゾウくんにこれからは【コリズ】と名前が変わったことを説明しよう。
これで明日はみんなと同じぐらい大きくなっているはず。
「コリス、待った?」
コリスくんのお母さんがドングリをいっぱい積んで台車を押しています。
「いっぱいとれましたね。」
カバの園長先生が言います。
「コリスも育ち盛りですから。」
お母さんは言いました。
【お母さんも明日、びっくりするぞ。どうしたの?コリス、こんなに大きくなってって。】
コリス君は名前の点々がばれないように名札を隠して。
「さようなら。」
と、コリスくんは自信満々に言って、お母さんの手を引っ張ります。
すると。
「さようなら。」
と、山びこさんが返事をしてくれました。
【やった!名前の点々の魔法が効いた。】
コリスくんはお母さんと嬉しそうに山を降りていきました。
真っ暗は山に。
真っ暗な木の幹に。
コリスくんの家があります。
コリスくんは枯葉にまみれて、夢を見ています。
「おはようございます。」
コリスくんが挨拶をすると。
「おはようございます。」
山びこさんが返事をしてくれて、手まで振ってくれます。
下駄箱の鞄をかけるフックを見ると、もうそれは目の前にありました。
余裕綽々で鞄を引っ掛けて、コウサギくんに言いました。
「これってダンクシュートになるかな?」
パンダ組の部屋の樹齢10年のクワの木の幹だって、手を伸ばせば楽々に帽子が引っ掛けれます。
コゾウくんが鼻笛を吹いて、カバの園長先生が振り向いちゃってもへっちゃらです。
だって、樹齢10年のクワの木の幹に登る必要ないし。
そして、廊下も1往復10歩でいけちゃうので、コゾウくんと同着一等賞です。
お母さんのドングリ弁当だって、10段重ね弁当箱でようやく満腹になって。
鉄棒の時間は。
コザルくんよりも高く。
コザルくんよりも早く。
いつもよりよけいに回っておりますって。
みんなが言います。
【さすがコリズくん。名前に点々がついただけはあるねって。】
コリスくんはそんな夢を見て。
とてもにやにやしながら。
とても小さな体で眠っていました。
【おしまい】
学生トゴールドスキンパック
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